知っているようで知らない 学校教育の目的と理念
学校教育は「教育基本法」に基づいて行われています。
第1章・第1条では、教育の目的を「人格の完成」とし、「平和で民主的な国家及び社会の形成者として心身ともに健康な国民の育成」を行うべきだと掲げられています。
第2条では、教育の目標として「幅広い知識と教養」「個人の能力と創造性」「男女の平等、自他の敬愛と協力」「生命や自然の尊重」「伝統と文化の尊重」等が挙げられています。
第3条では、「生涯学習」について、学校教育だけでなく大人も生涯にわたって学び続けられる社会と、その成果を生かすことのできる社会を実現することが求められています。
教育を平等に受けられる 日本の学校教育
日本の学校教育の特筆すべき点は「教育の機会均等」を掲げていることです。
「教育基本法」第1章・第4条では「すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種・信条・性別・社会的身分、経済的地位または門地によって教育上差別されない」とあります。
近年は、学習指導要領をもとに、地域や子どもたちの実態に応じ、地域と共に歩むことを目指した特色ある学校教育が展開されています。
現代の学校教育の 問題点と解決策
現代の学校教育には「家庭や地域で行うべきことを学校や教員が担っているための負担増」「子どもたちの多様化」「学習意欲の低下」「教員不足」「少子高齢化や人口減少による学校教育の維持」等、さまざまな問題があります。
昭和の教育は、子どもを未成熟な存在とみなし、知識や価値を合理的に伝達し、テストのために知識や正解を効率よく学習させることに重きを置いていました。
1980年代後半に、子どもが主体的に考えて表現や行動ができる資質や能力の育成を重視する「新しい学力観」が示されましたが、教育の現場にはなかなか浸透しませんでした。
そして現在は「主体的・対話的で深い学び」の授業実現に向けた改善が求められており、教育現場を変えるという意識改革が重要となっています。
これらの問題を解決するために、学ぶ側からの視点で捉え直し、子どもの可能性を引き出す「個別最適な学び」と「協働的な学び」の実現を目指す「令和の日本型学校教育」が示されています。
そのためには「主体的・対話的で深い学びの授業改善」「教員が子どもの学びを最大限に引き出せるような教育」「子どもの学びや教員を支える環境の整備」が求められています。
次世代を担う子どものために まずは大人から意識改革を
これまでの教育は、大人になってから困らないように「正解や正しいやり方を覚えておきなさい」というものでした。
次の世代は先行き不透明で予測不可能なうえ、環境問題・社会問題の解決も求められます。
そこに正解はなく、必要な知力・能力はこれまでと大きく異なります。
予測不可能な未来を担う子どもたちのためにできることは、判断材料を提示するくらいです。
学校で「すべきこと」ばかり与えてきた結果、自分で物事を選択する力や社会を変える力はあまり培われなかったのです。
不登校、自殺者数が過去に例をみないほど増加していますが、このような社会を作ったのは大人です。
ジェンダーを含め、既成概念にとらわれることなく、学校教育はもちろん、入試制度や採用試験の内容を見直し、いつでもやり直しができる仕組み作りを行いながら、子どもの自己肯定感を高め、自分の人生を自分で考えることができるように改善し続けることが必要です。
大人が有能さを秘めた子どもたちのさらなる変容を求めるなら、学校教育や社会を含め、大人の見方や考え方を改善し続けることが大切なのです。
教えてくれたのは…
滋賀大学教職大学院教授・博士(学校教育学)
青木 善治 先生
公立小学校校長の勤務を経て2021年より現職。第68回読売教育賞「カリキュラム・学校づくり部門」優秀賞(2019年)等を受賞。著書「教師が『教えない人』になれる時間 15分間の『朝鑑賞』が子どもの自己肯定感を育む」、学会誌論文等多数。